妊娠中から産後にかけて、葉酸に次いで重要な栄養素といっても過言ではない「ビタミンD」。
ビタミンDは妊婦の5~50%、母乳育児の乳児の10~56%に欠乏が見られるという報告もあります(Mulligan ML, et al. 2010.)
そこで今回は、妊娠中と授乳中の「ビタミンD」について、MYPLATEの代表であり管理栄養士のしき先生に話を聞き、その内容をまとめてみました。
妊娠中のビタミンD摂取は胎児の発育不全リスクを低下させる
妊娠中のビタミンDの摂取が如何に重要かを示した文献は多く存在します。
たとえば、妊娠中のビタミンDサプリメントの摂取が子どもの成長、罹患率、死亡率にどのような影響を与えるかを調べた体系的レビューとメタ分析の論文によると、妊娠中のビタミンDサプリメントの摂取は、胎児の発育不全のリスクを低下させるようです(Bi WG,et al. 2018.)。
また、2010年に、アメリカ産婦人科学会誌に掲載された研究によると、妊娠中のビタミンD欠乏は、妊娠高血圧症候群、低出生体重、新生児低カルシウム血症、乳児の発育不全、骨の脆弱性、自己免疫疾患の増加などと関連する可能性が示されています(Mulligan ML, et al. 2010.)。
ビタミンDの適切な摂取は、骨の健康をサポートし、免疫力を高めることにつながるメリットがあり、母親の健康にも非常に重要な意味を持ちますが、妊娠中にしっかりとることによって、胎児や乳児の健康にも役立つのです。
母乳に含まれるビタミンDは母親のビタミンDの摂取量による
「乳幼児におけるビタミンDの体内蓄積状況を調査したところ、0~6カ月齢の乳児の3割以上がビタミンD欠乏状態にあり、およそ半数が不足状態にある」ということが、第27回日本外来小児科学会で発表されました。
赤ちゃんにとってビタミンDは不足しやすい栄養素のひとつです。ビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収率に影響を与えるために、骨折しやすくなったり、足の骨がO脚に変形し歩行しづらくなる「くる病」という病気を招くこともあります。
先述のアメリカ産婦人科学会誌に掲載された研究によると、授乳期のビタミンD欠乏は、母乳中のビタミンD濃度の低下を招き、その結果、乳児の骨や歯の発育不全、くる病、免疫機能の低下、感染症の増加などにつながることが報告されています(Mulligan ML, et al. 2010.)。
母乳に含まれるビタミンDは、母親のビタミンDの摂取量に関連しています。母乳の場合、乳児のビタミンD必要量を満たすことは難しいとされており、そのため、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)では、授乳中は1日400 IU(10μg)のビタミンDサプリメントを摂取することを推奨しています(Wagner CL, et al. 2008.)。産後できるだけ早いタイミングからサプリメントをとるのが望ましいようです。また、AAPでは、完全母乳の場合はもちろん、混合や完全ミルクでも、ビタミンDサプリメントの摂取を推奨しています。
ビタミンDの上手なとり方
ビタミンDは、魚介類や卵黄、きのこ類に多く含まれています。油脂で炒めたり、ごまやピーナッツなどの種子類と一緒に食べたり、乳製品と一緒に摂ることでビタミンDの吸収率がアップします。
また、ビタミンDは、紫外線(UVB)を浴びることによって皮膚から合成することができる栄養素なので、毎日の日光浴も大切です。ただし、乳児の場合は、生後6か月を過ぎるまでは直射日光にさらさないようにしましょう。
さいごに
母親自身の健康管理はもちろん、胎児や乳児にも健康メリットが多いビタミンDは、魚介類を摂取しなければ、なかなか充足率を満たすことが難しい栄養素です。
産前産後は、魚の水銀量に注意を払う必要があるため、ついつい魚介類の摂取を控えてしまう人もいると思いますが、ぜひ積極的に食べて栄養を摂取していただければと思います。
そして、産前産後は、食事の工夫に加え、サプリメントの活用も大切です。ビタミンDだけでなく、葉酸や鉄にも配慮しながら、栄養補給を心がけましょう。
無理をせず、心にゆとりを持ちながら、可能な範囲で食生活を見直していただければと思います。
参考文献
- Mulligan ML, et al. Implications of vitamin D deficiency in pregnancy and lactation. Am J Obstet Gynecol. 2010 May;202(5):429.e1-9.
- Bi WG, et al. Association Between Vitamin D Supplementation During Pregnancy and Offspring Growth, Morbidity, and Mortality: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr. 2018 Jul 1;172(7):635-645.
- Hollis BW, Wagner CL. Vitamin D requirements during lactation: high-dose maternal supplementation as therapy to prevent hypovitaminosis D for both the mother and the nursing infant. Am J Clin Nutr. 2004 Dec;80(6 Suppl):1752S-8S.
- Wagner CL, et al. Prevention of rickets and vitamin D deficiency in infants, children, and adolescents. Pediatrics. 2008 Nov;122(5):1142-52.