【管理栄養士監修】妊活中・妊娠中に欠かすことのできない栄養素「葉酸」

妊活・妊娠を機に、栄養を意識しはじめた方は多いのではないでしょうか?

妊活中・妊娠中の方にとって何よりも重要な栄養素は「葉酸」です。葉酸はビタミンB9とも呼ばれるビタミンB群の一種で、妊活中・妊娠中に葉酸が欠乏すると二分脊椎(神経管閉鎖障害 の一つ)と呼ばれる先天異常の発症リスクが高まることがわかっています。

そこで今回は、プレママ必須栄養素「葉酸」について、MYPLATEの代表であり管理栄養士のしき先生に話を聞き、その内容をまとめてみました。

胎児の二分脊椎(先天異常)の発生数が多い日本

出典:International Clearinghouse for Birth Defect Surveillance and Research.Annual Report 2014

妊娠初期(妊娠7週目くらい)につくられる脳や脊髄などの中枢神経系のもととなる神経管は、葉酸が不足することで「神経管閉鎖障害」を引き起こすことがわかっています。葉酸は、細胞の成熟に必要不可欠なビタミンB群の一種であり、妊娠初期の胎児の細胞分裂が盛んな時期には、とくに必要とされる栄養素です。さらに余談ですが、近年、動脈硬化や認知症、骨粗しょう症といった病気を引き起こす一要因であるホモシステインは、十分な葉酸摂取によって、その血中濃度を下げることが明らかとなっており、葉酸は、健康維持・疾病予防には欠かせない栄養素といえます。

さて、妊娠前からの十分な葉酸摂取が重要であることは、数々の研究により明らかになっているわけですが、アメリカやカナダでは、1998年より穀物などへの葉酸添加義務化により、同障害の発症率低下に効果を上げており、現在では、世界86ヶ国で食品への葉酸添加政策が行われているそうです。

一方、日本では、2000年に厚生省(現厚生労働省)から葉酸摂取に関する通達が出されましたが、諸外国のような国策による葉酸強化は実施されておらず、主要な神経管閉鎖障害の一つである二分脊椎の発生率は、通達が出された以降も減少傾向がみられません(グラフ参照)。

神経管閉鎖障害(二分脊椎)とは

神経管閉鎖障害は、胎児のときに発症し、脳や脊髄に生まれながらにして異常をもった病気です。神経管は脳や脊髄などの中枢神経系のもとになるもので、妊娠初期(妊娠7週目くらい)につくられます。この神経管の形成がうまく行われないと、脳が作られず発育していない無脳症となり、流産や死産の割合が高くなります。

主要な神経管閉鎖障害の一つである二分脊椎は、背中の下のほうの神経管に“閉じわすれ”が起こり、中に入っている脊髄が飛び出してしまった疾患です。脊髄の中には神経が通っていますが、脊髄が外にさらされることで神経に損傷が起こります。

出典:次世代を担う皆さんに知って欲しい葉酸の話. 平岡真実 淑徳大学

産前女性はどれほど栄養が足りていないのか

20~30代の女性は、エネルギーや栄養素を不足なくとれているのか。とくに、産前女性の健康課題に焦点を当てて、その実態についてまとめたいと思います。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」で定められた各栄養素の必要量を100%として、厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」の結果からエネルギーや各栄養素摂取量の充足率を算出してみました(グラフ参照)。

非妊娠時・妊娠時ともに、ほとんどの栄養素が必要量に達していません。妊娠時は、エネルギーや各栄養素量の必要量が増えるため、もっとも重要な栄養素である葉酸の充足率は51%、さらに鉄は42%とかなり低くなっています。体重増加に欠かせないエネルギーでさえも、非妊娠時82%、妊娠時76%程度にとどまっており、エネルギー・栄養素ともに摂取量が不足していることがわかります。

葉酸をとるべきタイミング

葉酸は、細胞分裂に必要なDNAの合成に関与しており、細胞分裂が盛んな胎児期は、葉酸の要求量が高まっています。そのため、葉酸不足の影響は、胎児の組織・臓器が形成されるタイミングに出やすいのです。

具体的には、胎児の神経系は受精後17日ほどで形成が始まり、神経管については受精後28日(妊娠6週)で閉鎖するため、できるだけ早いタイミングでの葉酸摂取が必要です。実際に、先天異常の多くは妊娠直後から妊娠10 週以前に発生していると考えられており、厚生労働省の勧告をはじめ、さまざまな形で妊娠前からの葉酸の強化摂取が推奨されています。

2種類の葉酸を理解する

葉酸は大きく2種類の種類があり、食事に含まれるポリグルタミン酸型の葉酸と、サプリや加工食品等に添加されているモノグルタミン酸型の葉酸です。

サプリなどに含まれるモノグルタミン酸は、食事に含まれるポリグルタミン酸と比べ、生体利用効率は約2倍といわれており、厚生労働省からも妊娠計画時~妊娠初期(胎児の健康のために葉酸の強化摂取が欠かせない時期)にかけては、サプリ等での葉酸摂取が推奨されています

【生体利用効率の違い】
ポリグルタミン酸:生体利用効率50%
モノグルタミン酸:生体利用効率80%

必要量の違いについて

ライフステージの変化に応じて、どのくらい葉酸の必要量が変わるのか見ていきましょう。

妊活期(妊娠計画時)
食事からの葉酸摂取:240μg/日
サプリなどの食品からの葉酸摂取:400µg/日

妊娠初期
食事からの葉酸摂取:480μg/日
サプリなどの食品からの葉酸摂取:400µg/日

妊娠中期~後期
食事からの葉酸摂取:480μg/日
※サプリ等での摂取は必須ではないですが、食事のみで上記の量を摂取するのは一苦労なので、できるだけ妊娠期を通してサプリを活用するのがベスト。

授乳期
食事からの葉酸摂取:340μg/日

葉酸の上手なとり方

葉酸は、レバーや葉野菜などに多く含まれますが、レバーはビタミンAのとりすぎにつながる可能性があるので、妊娠中の摂取は好ましくありません( 妊娠初期にビタミンA摂りすぎると胎児に器官形成異常が起こる可能性が高くなるといわれています)。

また、葉酸は茹でるなどの調理によって損失しやすく、光や熱にも弱い性質をもっているため、新鮮なうちに加熱せずに食べられるサラダや納豆、果物の生搾りジュースなどにすると効率良く葉酸を摂取することができます。

葉酸は、ビタミンCやビタミンB12と協力し合って働くため、これらの栄養素と一緒に摂取すると、体内で効率良く利用されます。

参考文献

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